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舞台保存会だより89 天神まつり7月24日

2015年8月28日

天神まつり 7月24日

7月24日・25日、今年も天神まつりが賑やかに執り行われました。確か7月20日頃に梅雨が明けましたから、天候も安定して雨の心配もなく、諸行事が支障なく順調に進みました。舞台は特に夕立を恐れます。しかし今年は両日ともその気配もありませんでした。

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(7月24日朝 本町4丁目の舞台だけが境内に置かれています)

舞台は毎年24日の朝曳き出され、それぞれの町に置かれます。路上や歩道上、駐車場や公園の一角など、町により場所はさまざま。一日置かれた後、夕方になると町の人々が集まり、子供を乗せて町内を曳き回し、そのまま深志神社へ曳き入れます。

ここ数年、24日の朝は、その舞台配置を見に、朝のうち16町会を自転車で一巡りすることにしています。忙しい例祭日に外出するのは些か忸怩たる思いもありますが、氏子町内の祭礼準備の巡察と称し、今年も舞台廻りに出かけました。

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(飯田町2丁目舞台 村上邸前) (相当傾いています)

近いところから宮村町、小池町を見て、高砂通りを通り飯田町へ回ります。宮村町と小池町の舞台は個人の駐車場に置かれていますが、飯田町の舞台は2台とも通りの路側に置かれています。飯田町通りは南から北への一方通行路で、交通量も多くありませんから滅多なことはないと思いますが、道の端にぽつんと舞台が置かれている姿は、打ち捨てられたようで何とも不安げです。しかも道端のためバンクがきつく、舞台は外側に大きく傾いています。押せば倒れそう。もう少し置き場所を考えた方がいいと思うのですが…。

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(飯田町1丁目舞台 尾張屋前) (これもかなり傾いています)

飯田町1丁目舞台の前に通りかかると、反対側、町の西に大きな空き地ができていました。信濃毎日新聞松本本社ビルの建設予定地です。先日まで古いビルの解体工事が進められていましたが、7月になって作業も終わり、すっかり更地になっていました。思わず自転車を降りて近づくと、なんと飯田町から本町・伊勢町が見通せます。なんとも不思議な気分です。こんな景色は戦災のなかった松本では明治21年の大火以来ではないでしょうか。もちろん新しいビルが建てばこの視界はなくなりますが、比較的変化が少なかった中央東地区には、新しい風を吹き込むきっかけとなるかも知れません。

それにしても広大です。4,5本のビルを潰して平らにしただけのはずですが、野球場が一つ入りそうな広さです。『どんなものが建つんだろう。』と暫く見惚れていました。

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(飯田町1丁目の尾張屋の隣から西を臨む 正面は本町と伊勢町通りの交差点です)

実は信毎松本本社ビルの建設に際し、舞台保存会としては舞台を1,2台展示するスペースを設けてほしいと提案をしています。信濃毎日新聞社は新しいビルをただの本社ビルとして建設するのではなく、街の交流センター的な機能を併設した新しい都市空間ビルとしたい意向のようです。その中に舞台を常設展示するスペースを設けていただき、基本的に天神まつりと神道祭でしか見られない舞台を、広く市民や観光客にも知らしめたい、というのが保存会の希望です。

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(本町と伊勢町通りの交差点 両側に本町1丁目と2丁目の舞台が見えます)

舞台の常設展示場、それは平成の舞台修復事業が完了した今、老朽化した舞台庫の改修とともに松本深志舞台保存会にとって、大きな課題であり念願です。しかし、先立つものとスペースがなければどうにもなりません。だから、このような新しい理念の企画に乗せていただければ、とてもありがたいのです。

信毎本社ビルに併設する件、たぶん叶うのではないかと思うのですが、爆撃後のような広大な敷地を見ていると、

『これって、16台全部入っても余裕じゃないの。』と、新たな野望が湧き出すのを抑えきれないのでした。

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(中町通りと中町1丁目舞台)

飯田町から中町に回ると、蔵シック館前に中町2丁目と3丁目舞台が並んでいました。中町1丁目舞台は大橋通と中町通り交差点の小公園に置かれますが、いずれも飯田町舞台とは対照的に本当に素晴らしいロケーションの中にあります。特に2丁目・3丁目舞台は重厚な蔵シック館をバック置かれますので、映りがよく見るほどに惚れ惚れします。観光客や通りすがりの人も足を止める人が多い。こういう空間は松本のような街にとって大切だな、と思います。

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(中町2丁目舞台と中町3丁目舞台)

中町2丁目、3丁目の舞台は、結構も立派ですが彫刻が素晴らしいので、居心地も相俟ってつい長居をしてしまいます。

中町2丁目舞台の6面の勾欄下彫刻、これは太田鶴斎作の歴史説話ですが、何度見ても素晴らしい。特に光線の加減だと思いますが、見る毎に人物の陰翳が微妙に変化し、新たな表情を発見します。この辺は平面的な絵画では味わえない彫塑の魅力だと思います。(舞台保存会だより81011

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(中大兄皇子と中臣鎌足 出会いの図) (鳳輦を迎える楠木正成公の図)

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(「阿呼詠詩」11歳の菅公が初めて詩を詠む場面)

そして中町3丁目舞台は、やはり手摺部分の「こども四季遊び図」に目が行きます。この彫刻はいつ見てもかわいい。最近、水野耕嗣先生の奥さま・みずのさなえさんが『愛しきほりもの』という、可愛く魅力的な彫刻ばかりを集めた写真集を出版されましたが、その中にもこの子たちは大きく取り上げられました。

愛しきほりもの

(書籍『愛しきほりもの』)

遊び駆け回る子供たちの姿態の素晴らしさに加え、手足の美しさ、表情の豊かさ、活気、見ていて本当に心楽しく、微笑ましくなります。(舞台保存会だより46

中でも注目したいのは、子供たちの衣装です。着物の柄が、きちんと彫り込まれていることです。格子柄、花柄、蝶々の柄の着物を着た子もいます。祭礼に参加する子供たちはどうやら同じ柄のハッピを着ている模様。はっきりとは判りませんが、どうも若松の柄ではないかと思います。

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(中町3丁目舞台と「四季こども遊び図」)

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(夏の場面、祭礼遊び、獅子舞や神輿担ぎ)

普通このような素木彫刻では、衣装はドレープでその質感を表現するのみで、柄まで描くことはありません。しかしこの作者は(たぶん複数ですが)わざわざ細かな、手の込んだ柄衣装を着せています。なぜでしょうか。

作者がこの子たちを心から愛しんでいたからだと思います。彫り物であっても、子どもが無地の着物じゃ可哀そうだ。華やかな彼らが喜ぶような着物を着せてやりたい。

『この子にはこんな着物を着せてやろう。こちらの子はこの柄が似合うんじゃないか。』そんな作者の優しい気持ちが伝わってくるようです。

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(秋の場面、鬼ごっこする子ども 着物の柄はみな違います)

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(冬の場面、雪あそび)

どこの世界でもそうですが、技術や巧拙より大切なものがあり、そういうものこそが人を感動させます。中町3丁目舞台の場合、作者自身の郷愁と子供の対する強い愛情ではないでしょうか。無名の作者の作品ですが、深志舞台の彫刻として自慢したくなる逸品です。

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(春から初夏の場面、花祭り、端午の節句)

本町・伊勢町をぐるりと巡って、最後はいつも博労町舞台庫に立ち寄ります。博労町舞台は夕方からの曳き出しで、例年シャッターが閉まっていることが多い。イタズラされぬよう大切にしているからでしょうか。そうはいってもシャッターは興醒めです。しかし…

今年は開いていました。しかも観やすいように舞台を前に曳き出してあります。お尻からですが。ありがとうございます。新聞に掲載した「天神まつり舞台マップ」を手に観て回る人も、博労町舞台をゆっくり鑑賞できます。

巡回約1時間、ペダルも軽く長沢川沿いを深志神社へ帰りました。

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(博労町舞台と舞台庫、舞台庫は町内公民館の隣にあります)

夕方、5時ごろになると次々に舞台が境内に曳き込まれてきます。舞台と共に人が増え、宵祭りの雰囲気が昂まっていきます。

一昨年、天満宮御鎮座400年に当り、深志神社では境内整備で石畳以外の敷地に玉砂利を敷き詰めましたが、これが舞台にとってはたいへんなようです。神社境内で舞台は並列駐車で、いったん前を通り過ぎてからバックで境内北側の所定位置に曳き込みます。しかし、舞台はやはりバックが苦手で、引き綱も前にしか付いていませんから、押すより仕方ありません。押す力は下向きのベクトルに働き、しかも傾斜がありますので、勢い車輪は土にめり込み玉砂利を噛みます。いくら押しても車輪は砂利に潜り進みません。比較的軽量の本町5丁目舞台なども曳き入れに苦労しているのを見ると、あらためて大変なことだなと思います。神社の都合で敷いた玉砂利ですが、舞台町の皆さんには申し訳ないことです。

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(本町5丁目舞台の曳き込み風景)

やがて全16舞台がすべて曳き入れられると、黄昏の境内は完全に祭りモードとなります。神楽殿では日本舞踊が演じられ、拝殿前は祭のざわめきに満たされます。南源池の町内神輿が入ってくると、ざわめきの輪が大きくなります。どこかでペトルーシュカの第4場「市場の夕景」の音楽が流れているように感じます。

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(曳き込みを終え 舞台の前で)

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(南源池の町内神輿 神前で祓いを受ける)

午後7時、夕闇が落ち行く中、例大祭の宵祭りが始まります。神楽殿での奉納演芸は終わっていますが、拝殿前には参拝の長い列ができ、鈴を鳴らす音、柏手の音が絶え間なく響きます。境内のざわめきは宵闇とともに一層深まるようです。

宮司の祝詞が奏上されるころ、表からお囃子の太鼓の音が聞こえてきました。岐裡囃子(キリバヤシ)のようです。笛も奏でられていると思うのですが、たくさんの声や音に呑まれてしまうのか聞こえません。ただ、トントンと太鼓の響きだけが祝詞に合わせるように聞こえてきます。どこかの舞台で打っているのでしょう。

拝殿で平伏しながら、ざわめきの中から届いてくる太鼓の音に耳を澄ませていました。

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(提灯を点けて 宵宮の舞台)

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