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舞台保存会だより55 天神まつりと中町3丁目舞台の竣工

天神まつりと中町3丁目舞台の竣工
7月24日・25日、神社にとっても舞台にとっても一年で最大の行事である深志神社例大祭『天神まつり』が斎行され、無事に終了することができました。
梅雨明けが数日前だった今年は天気も殊のほか好く、例年心配される夕立ちの襲来もなく、かといって殺人的な猛暑にも至らず、天候に恵まれたよい二日間でした。
今年は4月から3回予定されていた舞台行事がことごとく雨天中止となっていましたので、天気には本当に気を揉みましたが、ホッとしています。尤も天神まつりだけは雨が降ろうが槍が降ろうが、舞台の中止はありません。(…さすがに槍では無理ですか…。)

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(深志神社境内に整列した舞台 今年は中町番です)

舞台は修復中の本町4丁目を除く15台が出場しました。24日は朝から舞台が曳き出され、各町所定の場所に置かれます。一廻り視て回ると、中町の3台などはとても素敵なロケーションで街並みとも調和して好い風情です。そうかと思うと路傍に打ち捨てられたような舞台もあります。町内に相応しい置き場所がないからでしょうが、路上はいったい危険ですし、もう少し何とかならないかな、と思ってしまいます。

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(中町2・3丁目舞台 中町蔵シック館前) (中町1丁目舞台 中町角の小公園)

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(飯田町通りに置かれていたオブジェ 白と赤の水玉デザインにしたらどうでしょう)

博労町では、今年は舞台庫の扉が開かれていました。ありがとうございます。これで観光客も覗いて観ることができます。
表まで曳き出していただけるともっと嬉しいのですが、来年はぜひ検討してください。

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(博労町舞台庫とその中の舞台)

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(極楽寺前の舞台庫から曳き出される5丁目舞台) (本町の舞台4台 境内に整列)

本町5丁目では2年振りの再デビューということで、町会長さん以下飾り付けに余念がありません。
舞台は夕刻より次々に境内に曳き込まれ、社殿右手前に並びます。宵祭りの夜は晩くまでお囃子の音が響いていました。

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(24日の夕方 境内に曳き込まれてくる舞台 伊勢町3丁目)

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(24日夜の舞台夜景 舞台の中も外も賑やかでした)

先立つ20日前、7月4日には中町3丁目舞台の修復竣工・入魂式が挙行されました。
梅雨のさなかではあり、やはり天候が心配されました。停滞前線が列島と並行して上下し、前日の天気予報でも雨マークが消えません。久方ぶりに雨の入魂か、と覚悟していたところが、明けてみると朝から抜けるような青空、快晴です。真夏の太陽が降り注ぎ、舞台の影が神前の石畳の上にインクをこぼしたよう。陽炎が立つばかりの境内で、むしろ参列者の熱中症を気にしながら入魂神事を執り行いました。

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(竣工したばかりの中町3丁目舞台)

中町3丁目舞台の魂抜き・解体起工式は昨年の9月26日でした。およそ10ヶ月で竣工を迎えたことになります。修復のため天神まつりをパスすることもなく、理想的な工程ではなかったでしょうか。(舞台保存会だより45

そして中町3丁目舞台は、予想通り素晴らしい出来栄えでした。いつもながら漆塗りが美しく、殊に小屋根や支輪部に施された変り塗りは実に見事で、舞台を華やかに演出しています。修復前はただの汚れかと見間違われた小屋根の赤い水玉模様は、深みのある漆のグラッシから浮き上がり、夏の夜空に咲いた花火のようです。比較的数の少ない錺金具も箔を打ち直して鮮やかに輝き、豪華な印象を際立たせています。

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(中町3丁目舞台の小屋根)

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(螺鈿細工による支輪部の鉤型唐草文様) (舵棒の竜)

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(錺金具 八双金具のデザインは唐獅子に牡丹)

「こんなに綺麗になっちゃうと、曳き回すの、やめたくなるな…。」
保存会の副会長でもある伊東町会長の呟きは、冗談に聞こえません。ほんとに飾っておきたい舞台です。気持ちは解りますが、舞台は曳くもの。傷めないように上手に曳き回してください。

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(7月4日 神前に曳かれる中町3丁目舞台)

二階に載る「神主さん」人形は、今回修理をしませんでした。その代わり、身に着けていた衣装装束を新調し、その姿を革めました。

中町3丁目の神主さん人形は、狩衣・烏帽子姿ですが、これまで身に着けていた装束は普通の大人用の狩衣(カリギヌ)や袴で、まったく体格に合っていません。お父さんの服を着て引きずるフクちゃんみたい。誰がこんな代物を着せたのでしょうか。

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(舞台改修前の人形 装束に埋もれて手も見えない)

舞台人形というものは下から見ていると、見上げるためか大きく感じられ、普通の大人と変わらぬ体格と見えますが、実物は意外と小さく、概ね小学生も低学年ぐらいの背丈です。3丁目の神主さんも身長は110㎝でした。装束がガブつくのは当たり前です。神職の眼からするとあまりにみっともないので、町会にお願いして衣装だけは特別誂えで新調してもらいました。
着装は私がいたしました。
6月の初め頃だったでしょうか。伊東町会長さん、氏子総代の増田さんと一緒に3丁目の舞台庫を開けました。そこには仕上がったばかりの舞台があり、思わず溜息が洩れます。
舞台の2階に上ると、美しく装いを改めた舞台の中で、彼だけが取り残されたような姿で佇んでいました。大きな装束を被せられて、手は袖の中。狩衣が裾を長く曳くのは仕方ないとしても、袴も大人用ですからだぶだぶで、泥濘(ヌカルミ)に嵌ったような格好です。
「こんな哀れな姿で、長年ご苦労だったな。」
人形とは言え、同職のためか他人のような気がしません。

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(装束着物を脱いだ裸の中町3丁目人形)

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(胴の部分 前と後ろ)

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(肩関節部分) (頭部 烏帽子を支えるため前頭と頭頂部に棒を打ちこんである)

まずは装束と着物を脱がせてやります。襦袢まで脱がせると、中からからくり仕掛けの本体が現れました。木製の軸棒や小型プーリーを各所に配したメカニカルな胴の作りは、彼がからくり人形であることを主張しています。しかし、どういう仕掛けでどう動くのか、何が足りなくなっているのか、全く解りません。専門家に診てもらえばよいのでしょうが、今回、からくりを復活させる予定はないので呼んでいません。肩や各所の関節は、動きを制限するため布で縛られていました。

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(着装 単と袴を付けたところ) (狩衣も着ました)

裸のままだと人形が寒そう(恥ずかしそう)なので、チャッチャと着付けることにしました。

襦袢と白衣を着せ、萌黄色の単(ヒトエ)を羽織らせてから袴を穿かせます。お尻から支え棒が出ていましたので人形の肢を通すのには苦労しました。狩衣は寸法がぴったりでした。

ゼペット爺さんになった気分で、着付けを終えると、人形は優しい顔でほほ笑んでいます。身に合った衣装を着られて本当に嬉しい、といった風情です。むろん顔の表情は以前のままですが、なんだか微笑みを増したように思えてなりません。

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(着装を終えた人形の表情)

『おじいさん、きれいな服をありがとう!』
そんな声が返ってきそうです。あらためて童話「ピノキオ」はリアリティーに溢れた物語なのだなと、再認識しました。
後日、大麻(オオヌサ=祓いの道具)も作って、その右手に握らせてあげました。私からのプレゼントです。

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(入魂式で舞台上の人形 手には大麻を持っています)

今年の天神まつり、中町3丁目舞台は町の皆の喜びを乗せ、華やかに曳かれましたが、早々に後輪の車輪止め金具が折れたり、屋根正面の鳥衾(トリブスマ)を電線に引っ掛けて落としてしまったりと、トラブルに見舞われたようです。注意して慎重に曳き回せば、おそらく起きない事故ですから、くれぐれも壊さないように上手に曳いてください。

大きな事故は二階の神主さん人形が、進む先から祓い清めてくれることでしょう。

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(鳥衾を飾る中町3丁目舞台の鬼 修復ビフォー・アフター)

…えっ、人形の着ていた古い装束は、どうしたか?!(ドキッ)…
…私が下取りさせていただきました。彼が20年も着ていた古着ですし、町会でもいらないそうですから。…ささやかな役得ですよ。
来年の「あめ市」は、これを着て祭礼ご奉仕しようかと思っております。